ICの電源ピンにつける「パスコン」について知りたい。
- そもそも「パスコン」の役割って何?
- パスコンを効果的に使うためのポイントは?
- パスコンの注意点があれば知りたい。
こんな疑問にお答えします。
この記事の内容
- パスコンの役割(2つ)
- パスコンを効果的に使うポイント(3つ)
- パスコンの注意点(2つ)【知らないとキケン!】DCバイアス特性と反共振
この記事を書いているわたしは、デジタル回路設計歴20年です。これまでの経験と知識を活かし、現在はマネージャーとして商品企画や開発チームのサポートを行っています。
「パスコン」は、「バイパスコンデンサ」(Bypass Capacitor)の略で、「デカップリングコンデンサ」とも呼ばれる部品です。
電源パターンとGNDの間に接続され、「電子回路への電源供給を安定化する」、という超重要な役割があります。
パスコンを付け忘れた電子回路は、きちんと動くことはできないでしょう。パスコンはそれほど重要な部品です。
この記事では、パスコンの役割や、使い方のコツ、注意点などを紹介しています。
初心者の方にもわかりやすく解説していますので、ぜひ学んで、電子回路設計のスキルを向上させましょう!
もくじ
『パスコン』の役割(2つ)
「パスコン」の役割は主に、2つあります。
パスコンの役割
- ICへ電荷を供給し、電源電圧の変動を小さくおさえる。
- ICのノイズを吸収してGNDへ逃がす(バイパスする)。
たとえば、高速デジタルICでは、ICの出力信号がLow → Highへ変化すると、ICの電源ピンには瞬間的に大電流が流れます。このときに、「電源回路からの供給と合わせて、パスコンからもICの電源ピンへ電荷を供給するので電源ラインの電圧変動を小さくおさえる」といった働きをします。
電源ラインは、ICの安定動作に関わるめちゃくちゃ大事な部分です。
もしICにパスコンをつけ忘れると・・・、電源ラインが大きくゆれてICは正しく動きません。
「パスコン」はICを安定的に動かすために必要な超重要部品です。
『パスコン』を効果的に使うためのポイント(3つ)
上記のようにパスコンには、2つの役割があることがわかりました。次は、パスコンに、役割とおりにきちんと働いてもらうためのポイントを解説します。
ポイントは3つあります。「容量」、「個数」、「配置位置」です。
パスコンを効果的に使うポイント
- 容量・・・適切な『容量』であること。
- 個数・・・適切な『数』であること。
- 場所・・・適切な『場所』に置いていること。
「どれぐらいの容量のパスコンを、何個、どこに置くか?」。
この3つをすべて最適化すると、パスコンが効果的に働いて、電源ラインを安定化してくれます。
ICの負荷電流が大きく変化しても、パスコンが電圧変動を小さくおさえてくれるので、ICは安定してきちんと動きます。
必要なパスコンの数・容量は、使うICのデータシートに書かれている場合があります。まずはデータシートを調べてみましょう。
もしデータシートに書かれてない場合は、
- 社内で実績のある回路図に合わせる。
- ICのリファレンスボードの回路図に合わせる。
- ICメーカーや代理店へ問い合わせる。
- 「プリント基板のシミュレーション(PI解析)」をする。
といった方法もあります。
① パスコンの数(何個つけるか?)
「電源ピン1本に、パスコン1個」がキホンです。
ただ、基板上の部品配置スペースには限界があります。パスコンを基板に置くスペースが物理的にないときは、どうするか?
ICの電源ピンの配置が、近い電源ピン2本まとめて、パスコン1個を共用する場合があります。
パスコンを共用して減らして動作上、問題ないかは、実機の電源電圧変動がICの許容電圧変動幅にきっちり収まっているか、オシロで電源波形を測定して確認する必要があります。
また、FPGAのような大電流ICでは、異なった容量のパスコンをいくつか並列でつけることがあります。(例:0.01uF、0,1uF、10uF)。
異なった容量のパスコンを電源ピンにつける理由はなんでしょうか?
異なった容量のパスコンをつけると、電源ラインのインピーダンスを広い周波数範囲で下げることができ、電源ラインが安定化するからです。
② パスコンの容量(どれくらいにするか?)
- 低周波ノイズを小さくしたい場合は、大容量のコンデンサ(数10uF~数100uF)を使います。
(例)スイッチング電源回路 - 高周波ノイズを小さくしたい場合は、小容量の積層セラミックコンデンサMLCC(0.1uF~数100pF)を使います。
(例)数10MHz以上で動作するIC
小容量のコンデンサは、高い周波数ではインピーダンスが小さくなるので、電源とGND間がコンデンサを介して高周波的にショート状態になります。
高周波ノイズがコンデンサを通ってGNDへ逃げるので、電源ライン上の高周波ノイズをへらすことができます。
③ パスコンの配置場所(どこに置くか?)
パスコンはICの電源ピンとGNDピンの、ド直近に置きましょう。
なぜなら、基板の配線パターンが短いほど配線パターンが持つ「インダクタンス成分」が小さくなり、コンデンサのノイズ除去効果が最も得られるからです。
パスコンは、ICの電源ピンから遠い場所に置いても効果はありません。ICとパスコンが離れていると、配線パターンのインダクタンス成分の影響でパスコンの効果がなくなってしまいます。
また、容量が異なる場合は、ICの電源ピンから見て容量の小さいパスコンから順に置きます。
「ICの電源ピン → 小容量 → 中容量 → 大容量」の順です。
(例)ICの電源ピン → 0.01uF → 0,1uF → 10uF
【知らないと怖い】パスコンの注意点(2つ)
パスコンには使うときの注意点が2つあります。回路設計者なら、絶対知っておきたい内容ですね。
パスコンの注意点(2つ)
- DCバイアス特性・・・パスコンに直流電圧を加えると、パスコンの静電容量がへってしまう特性。
- 反共振・・・異なった容量のコンデンサを配置すると、並列共振により電源インピーダンスが大きくなる現象。
①【DCバイアス特性】パスコンに電圧を加えると容量が減少する!
セラミックコンデンサに直流電圧を加えると「公称値」よりも容量が減少します。この性質を「DC(直流)バイアス特性」と言います。
(例)コンデンサのDCバイアス特性(GRM32ER60E337ME05) 引用元:村田製作所”SimSurfing”
回路設計でコンデンサを選ぶときは、「どれくらいの電圧で、どのくらい容量が減少するか」、DCバイアス特性グラフで確認しましょう。
外径寸法の小さいコンデンサほど、電圧を加えたときに減少する容量が大きくなります。
ポイント
コンデンサの容量精度が必要な回路にセラミックコンデンサを使用する場合は、加える電圧に対して数倍の耐圧を持つセラミックコンデンサを使用して、DCバイアス特性による容量減少を小さくしましょう。
Q:セラミックコンデンサに直流電圧を印加すると静電容量が変わるのですか?また、静電容量変化について注意する点はありますか?
A:セラミックコンデンサの中でも高誘電率系に分類されるコンデンサ(B/X5R特性やR/X7R特性)につきましては、直流電圧を印加することによってその静電容量が公称値よりも変化する場合がございますのでご注意ください。
引用元:村田製作所のWebサイト セラミックコンデンサのFAQ
②【反共振】異なった容量同士を組み合わせると、電源変動が大きくなる!
電源インピーダンスが大きくなる現象「反共振」
異なった容量同士のコンデンサを配置すると、コンデンサの「容量」と、コンデンサ自身が持つ「寄生インダクタンス」の「並列共振」で、下図のように電源インピーダンスが大きくなる現象(反共振)がおこります。
寄生インダクタンスは、「等価直列インダクタンス」(ESL:Equivalent Series Inductance)とも言われます。
(例)100uFと0.1uFの「反共振」
「反共振」がおきると、負荷側のIC(例:FPGA)が電源電流を引っ張ったときに、電源電圧が大きくゆれます。
結果、電圧リプル変動がICの許容動作電圧範囲をオーバーしてICが誤動作します。動かない基板になります。
上記の反共振のグラフは、無償の電子回路シミュレータ「LTSpice」で表示しました。
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電源電圧が大きくゆれる理由は?
電源電圧が大きくゆれる理屈は、オームの法則の「V = R x I」の式で考えるとわかりやすいです。この式のとおり、抵抗「R」の値が大きくなると、電圧「V」も大きくなりますよね。
抵抗「R」を「電源インピーダンス」に置き換えると、以下の式になります。
電源電圧[V] = 電源インピーダンス[Ω] x 電流[A]
右辺の「電源インピーダンス」が大きくなると、左辺の「電源電圧」も大きくなってしまいます。
「反共振」は回路シミュレーションで確認できる
パスコン同士の「反共振」はどうやって確認すればいいの?
パスコンの「反共振」が起きるかどうか確認するには、「回路シミュレーション」するのが確実です。
基板を作って実機評価しなくても、PC上でシミュレーションして確認できます。
上記の「反共振」のグラフは、無料の電子回路シミュレーター「LTSpice」を使って確認しました。
LTSpiceは無料でありながら、使い勝手がよくて高機能。回路設計エンジニアの中では超定番のソフトです。
「回路シミュレーション、やってみたい!」という方は、このLTSpice一択です。
LTSpiceがどんなシミュレーターソフトか知りたい方は、以下で紹介しています。ぜひ目を通してみてください。
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【無料で楽しむ】初心者も安心!回路図・基板設計のフリーソフト5つ比較
「反共振」の対策方法は、2つ
「反共振」が見つかった場合、どう対策するか?
反共振(電源インピーダンスのピーク)を小さくするには、以下の2つで対策します。
- 組み合わせるパスコンの容量を変更する。(例:1uF → 0.1uFへ変更)
- パスコンを追加・削除する。(例:0.1uFを1個追加)
PC上で回路シミュレーションをすれば、基板を作ってパスコンをつけかえなくても、反共振を小さくする容量を検討できます。
試作費用も評価時間もかけずに対策できる回路シミュレーション、コスパ最高ですよね!
まとめ
この記事では、電源ラインを安定させるための超重要部品「パスコン」の役割・容量・注意点などについて紹介しました。
基板を作る前に「電源ラインに何uFのパスコンを、どこに・いくつ配置すればいいか?」を検証しておけば、きちんと動く基板を作ることができます。
特に低電圧・大電流の電源ラインに対しては、きっちり事前検証しておくと、実機でのトラブルが少なくなります。
この記事が回路設計業務の参考になれば幸いです。
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