(悩む回路設計者)
GHzオーダーの高速信号の基板、きちんと動かすのってホントむずかしい・・・。
- 高速信号の回路設計・基板設計のポイントって何?
- 実機デバッグでハマった。他のエンジニアはどうやって解決してるのかな?
- CPUがフリーズ。高速信号よりも、電源系の問題かも?
高速デジタル信号の回路を安定して動かすノウハウを知りたい。
こんな疑問にお答えします。
この記事を書いているわたしは、デジタル回路設計歴20年です。これまでの経験と知識を活かし、現在はマネージャーとして商品企画や開発チームのサポートを行っています。
この記事の内容
この記事では、わたしが以前、高速デジタル信号の実機評価でハマってしまったときに、問題解決のヒントになった本を紹介しています。
洋書の翻訳本で、少し不自然な日本語はありますが、どの本も技術的な内容はめちゃくちゃ濃いです。かなり読み応えがあります。
高速信号を深掘り!おすすめ本5冊
PCIeやDDR系の高速信号の基板を評価してると、原因不明の症状って起きたりしませんか? しかも発生頻度が低い症状。こういうのが一番やっかいです。
わたしの経験ですが、
- エージングしてた試作基板が朝会社に行ったらフリーズしてた。
- 映像にちらっとブロックノイズが出る。
- メモリのベリファイエラーが不定期に起きる。
、なんてことがありました。
ググっても同じようなトラブル事例は見つからないし、基板のどこをどう調べたらいいか検討もつきませんでした。
上記5冊は、そんな高速信号の実機評価で悩んでいるときに、問題解決のヒントをくれた本たちです。
「高速信号の挙動をもっと深く知りたい」、「GHzオーダーの基板をもっと安定して動かす秘訣を知りたい」、という探求心が旺盛な方にはピッタリだと思います。
価格は高めなので個人で買うより、できれば会社で購入が良さそうですが、ここは上司と要相談ですね。
回路設計の経験が3~5年ぐらいの方には、新たな気づきを得たり知識を深められる本だと思います。
プリント基板の高周波での振る舞いが分かりやすく解説され、回路設計の実務に役立つ内容が詰まってます。
ぜひチェックしてみてください。
もし「基礎から学べる高速信号の入門書ってないかな?」と思った方は、以下リンクを見てみてください。
「USB・PCI Expressなど、高速信号の回路設計をこれから始める」って方向けのおすすめ本です。
>>【高速デジタル信号】回路設計・基板パターン設計の第一歩!初心者にピッタリの本3冊
-
【高速デジタル信号】回路設計・基板パターン設計の第一歩!初心者にピッタリの本3冊
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もくじ
高速信号の回路開発で役立つおすすめ本(5冊)
以下の5冊はいずれも、「GHzオーダーの高速デジタル信号の回路設計」に特化した解説本です。
日本の本を探しましたが見つからず、探し出したのがこの5冊(翻訳本)です。
高速信号を深掘り!おすすめ本5冊
値段は、普通の本と比べるとびっくりするぐらい高いです。
最初値段を見たときは買うのをやめました。でも「これを知りたかった」とワクワクする内容だったんですよね。
で、思い切って買った結果、自分の技術的な知識も増えて、回路設計の仕事がますます楽しくなりました。先行投資したかいがあったなって思います。
1冊だけ選ぶとしたら、どの本?
5冊紹介してますが、もし「1冊だけ選ぶとしたら?」と聞かれたら、
① 高速デジタル信号の伝送技術【原書3版】: シグナル パワーインテグリティ入門
が一番おすすめです。
理由は3つです。
- 高速デジタル信号の技術要素を、網羅的に解説してくれるから。
たとえば、伝送線路、クロストーク、差動ペア、まだ、電源インピーダンスなどです。これ1冊読めば、設計の時の迷いがグッと減ります。 - 理論だけでなく、実際の現場で役立つ情報が詰め込まれているから。
エリック・ボガティン氏の豊富な経験が反映された実践的なアドバイスが多くあります。 - シグナルインテグリティに関する「設計ガイドライン」や「経験則」が書かれているから。
これは実務で直面する問題解決に役立つノウハウだと思います。
ほかにも、この①「高速デジタル信号の伝送技術」は、今の技術トレンドに合わせて改版され、内容が新しいからってのも理由です。
②~⑤の本は改版されていません。すばらしい解説ですが、今の技術トレンドからすると内容が少し古くなってる感じです。
やっぱり新しい方がいいです。
以上の理由から、今、「高速デジタル信号の回路設計を学ぶのに、1冊だけ選ぶとしたら?」と聞かれたら、
①「高速デジタル信号の伝送技術【原書3版】: シグナル パワーインテグリティ入門」をおすすめします。
① 高速デジタル信号の伝送技術【原書3版】: シグナル パワーインテグリティ入門
高速信号処理実現のための電子回路技術を、基礎から応用までをていねいに解説された1冊です。
対象読者は、「ギガビット高速信号の回路設計の実務知識を深めたい」って方向けです。
この本の情報
以下の全13章と、付録が4つです。
- 第1章 避けて通れないシグナルインテグリティ問題
- 第2章 タイムドメインと周波数ドメイン
- 第3章 インピーダンスと電気的モデル
- 第4章 抵抗の物理的基礎
- 第5章 キャパシタンスの物理的基礎
- 第6章 インダクタンスの物理的基礎
- 第7章 伝送線路の物理的基礎
- 第8章 伝送線路と反射
- 第9章 損失のある伝送線路と立上り時間の劣化,材料特性
- 第10章 伝送線路のクロストーク
- 第11章 差動ペアと差動インピーダンス
- 第12章 シグナルインテグリティへのSパラメータの導入
- 第13章 電源分配ネットワーク(PDN)
- 付録 A シグナルインテグリティ問題を解決するための100余の設計ガイドライン ・
- 付録 B シグナルインテグリティ効果を見積もるための100の経験則
- 付録 C 主要参考文献
- 付録 D 章末理解度テストの問題と解答
価格 | 22,000円+税 |
発行年 | 2021年 |
著者 | エリック・ボガティン氏、須藤 俊夫 (翻訳) |
ページ数 | 804ページ |
付録 | なし |
出版社 | 丸善出版 |
この本の感想
本文の解説もわかりやすくて申し分ないですが、巻末にある以下の付録も回路設計エンジニアには非常に役に立つ情報だと思います。
回路設計・基板設計をする上での、考え方のヒントがたくさんあります。
- 付録 A シグナルインテグリティ問題を解決するための100余の設計ガイドライン
- 付録 B シグナルインテグリティ効果を見積もるための100の経験則
- 付録 C 主要参考文献
- 付録 D 章末理解度テストの問題と解答
付録AとBは、実機デバッグのトラブル調査で考え方のヒントなりました。
また、付録Dの「理解度テスト」は、あらたな気づきをもらえます。問題を解いて考えることで理解がより深まりますね。
>>エリック・ボガティン 高速デジタル信号の伝送技術 (Amazon公式サイト)
② 高速信号ボードの設計【基礎編】
世界的に著名なハワード・ジョンソン氏が高速信号の基板設計について、実践的なアドバイスをしてくれる1冊です。
高速デジタル信号のシグナル・インテグリティ(SI)が体系的に解説されていて、「基礎編」と「応用編」の2冊あります。
この本の情報
以下の全12章と、付録が5つです。
小見出しは抜粋です。
- 1章 基礎
1.1 線形・時間不変・集中定数回路のインピーダンス
1.4 共振の概念
1.5 デジタル入力に対する最大線形応答 - 2章 伝送線路パラメータ
2.3 理想的な伝送線路
2.6 表皮効果
2.11 表面粗さ - 3章 伝送線路の性能領域
3.3 必要な数学的基礎:入力ンピーダンスと伝達関数
3.14 線形イコライザ:長いバックプレーン配列の例 - 4章 周波数領域モデリング
4.2 フーリエ変換への近似
4.8 周波数領域シミュレーションの組込み - 5章 プリント基板配線
5.1 プリント基板の信号伝達
5.3 プリント基板のノイズと干渉
5.5 ビアのモデリング - 付録A シグナルインテグリティ部門の構築
- 付録B 損失傾斜の計算
- 付録C 2ポート解析
- 付録D π型モデルの精度
- 付録E 誤差関数erf()
価格 | 8,000円+税 |
発行年 | 2007年 |
著者 | ハワード・ジョンソン氏、須藤 俊夫 (翻訳) |
ページ数 | 単行本 : 464ページ |
付録 | なし |
出版社 | 丸善出版 |
この本の感想
特に理解が深まったのは、「2章 伝送線路パラメータ」です。
ここでは「伝送線路」の基礎から「表皮効果」や「表面粗さ」まで内容をカバーしてます。具体例で説明されててすんなり理解できました。
あと、「5章 プリント基板配線」も参考になりました。
プリント基板の信号伝達からノイズと干渉、コネクタやビアのモデリングまで、これから回路設計・基板設計をしていく上で必要な知識が詰まってます。読むたびにこれまでの知識同士がつながって自信がつきました。
この本を読めば、高速信号の回路設計の基礎から応用まで学べて、新しい発見もたくさんあると思います。
回路設計の勉強を始める人、もしくはすでに始めてるけど難しく感じてる人は、ぜひこの本を手に取ってみてください。きっと前より自信がつくと思います。
>>ハワード・ジョンソン 高速信号ボードの設計【基礎編】 (Amazon公式サイト)
③ 高速信号ボードの設計【応用編】
この本は上記①「基礎編」の「応用編」です。
この「応用編」もハワード・ジョンソン氏が執筆してて、高速信号伝送に関する実践的なアドバイスが盛りだくさんです。
この本の情報
続きの「第6章」から始まります。以下の全8章と、付録が5つです。
小見出しは抜粋です。
- 6章 差動信号伝送
6.4 差動とコモンモードの電圧,電流
6.13 LVDS信号伝送 - 7章 汎用ビルディングケーブル規格
7.4 好ましいケーブルの組合せ
7.5 FAQ:ビルディングケーブルの実践 - 8章 100Ωツイストペアケーブル
8.1 UTPケーブルの信号伝搬
8.5 シールドに関する問題 - 9章 150ΩSTP―Aケーブル
9.2 150ΩSTP―Aケーブルのノイズと干渉
9.4 150ΩSTP―Aケーブルの電磁放射と安全性 - 10章 同軸ケーブル
10.1 同軸ケーブルの信号伝搬
10.2 同軸ケーブルのノイズと干渉 - 11章 光ファイバケーブル
11.1 ガラスファイバの製造
11.2 ファイバ芯線の仕様 - 12章 クロック分配
12.2 クロックスキューの計算
12.15 クロック配線のクロストーク低減
12.16 放射ノイズの低減 - 13章 時間領域シミュレーションツールと手法
13.4 IBIS(I/Oバッファ情報仕様)
13.9 電源とグラウンドの共振 - 付録A シグナルインテグリティ部門の構築
- 付録B 損失傾斜の計算
- 付録C 2ポート解析
- 付録D π型モデルの精度
- 付録E 誤差関数erf()
価格 | 8,000円+税 |
発行年 | 2007年 |
著者 | ハワード・ジョンソン氏、須藤 俊夫 (翻訳) |
ページ数 | 単行本 : 488ページ |
付録 | なし |
出版社 | 丸善出版 |
この本の感想
この本は、回路設計の現場で活用できる具体的なアドバイス満載でした。
「6章 差動信号伝送」を読んでようやく差動ってのが理解できました。「シングルエンド伝送」から「差動信号伝送」まで、一つ一つていねいに解説されてます。その違いやそれぞれの特徴がわかりやすですね。
また、「12章 クロック分配」も必読。クロックスキューの計算や、クロック配線の終端の重要性など、くわしく解説してくれてます。
この本は、技術的にかなり深い内容ですが、訳文が読みやすく理解がスムーズでした。ハワード・ジョンソン氏の豊富な経験と知識が詰まった一冊、ぜひ手に取ってみてください。
>>ハワード・ジョンソン 高速信号ボードの設計【応用編】 (Amazon公式サイト)
④ 高速デジタル回路設計 アドバンスト・シグナルインテグリティ
インテル社の技術者が高速デジタル回路設計の技術を体系的にまとめた1冊です。
おすすめの対象読者は、「高速デジタル回路の要素技術を数式も含めて理解したい」って方向けです。
回路設計者よりも、ICのロジック設計する半導体エンジニア向けな感じです。(回路設計者のわたしは数式が多くて流し読みしてました)
内容的には、Gbpsの「高速シリアル伝送」のSパラメータ解析やイコライザなどの技術要素について、数式をまじえて理論をくわしく解説してくれてます。
理論的な理解を深めたいっ方にはバイブルとなる一冊と思います。
この本の情報
以下の全14章です。付録のページはありません。
小見出しは抜粋です。
- 第1章 シグナルインテグリティの重要性
1.1 コンピュータ性能の過去と未来
1.2 問題 - 第2章 シグナルインテグリティのための電磁気学
2.1 マクスウェルの方程式
2.2 ベクトル演算子 - 第3章 理想的な伝送線路の基礎
3.1 伝送線路の構造
3.2 無損失伝送線路上の波の伝搬 - 第4章 クロストーク
4.1 相互インダクタンスと相互キャパシタンス
4.2 結合を含んだ波動方程式 - 第5章 理想的でない場合の導体モデル
5.1 無限の導電性媒質中の信号伝搬
5.2 伝送線路の古典的導体モデル - 第6章 誘電体の電気特性
6.1 誘電体の分極
6.2 誘電体材料の分類 - 第7章 差動信号伝送
7.1 コモンモードノイズの除去
7.2 差動クロストーク - 第8章 物理チャネルに対する数学的要求
8.1 周波数ドメインのタイムドメインシミュレーションへの影響
8.2 物理チャネルに対する要求 - 第9章 デジタル技術者のための回路網解析
9.1 高周波の電圧波・電流波
9.2 回路網理論 - 第10章 高速チャネルのモデリング
10.2 現実のリターン経路
10.3 ビア - 第11章 I/O回路とモデル
11.2 プッシュプルトランスミッタ
11.10 IBISモデル - 第12章 イコライゼーション
12.1 解析と設計の背景
12.2 連続線形イコライザ - 第13章 タイミングジッタとノイズのモデリングと配分
13.1 アイダイアグラム
13.2 ビットエラーレート - 第14章 応答曲面モデルを使ったシステム解析
14.2 ケーススタディ:10Gb/s差動PCBインターフェース
14.3 最少二乗フィッティングによる応答曲面モデルの構築
価格 | 15,000円+税 |
発行年 | 2012年 |
著者 | ホール氏・ヘック氏、須藤 俊夫 (翻訳) |
ページ数 | 単行本 : 627ページ |
付録 | なし |
出版社 | 丸善出版 |
>>ホール & ヘック 高速デジタル回路設計 アドバンスト・シグナルインテグリティ (Amazon公式サイト)
⑤ パワーインテグリティのすべて 電源ノイズを抑えるプリント基板設計
電源ノイズを抑えるプリント基板設計のノウハウを学べる1冊です。
対象読者は、「どうすれば安定した電源供給できる電源パターンを設計できるか? その理論や解析方法を知りたい」って方向けです。
「電源ノイズを抑える」って視点で、プリント基板をどう設計していけばいいかについて解説してくれてます。
たとえば、電源インピーダンスやパスコンの特性といった基礎知識から始まり、電源プレーンのモデリング、同時スイッチングノイズ、タイムドメイン解析法と段階的に深掘りしています。
「第5章 応用例」では、この本の理論を実際の基板設計ではどう活かすか、の具体例があります。自分の回路にどう当てはめればいいかのヒントになります。
電源パターンをどう引き回すか、という内容ではなく、理論的な内容が主です。
パターンの引き回しノウハウを知りたい方は、以下の本がおすすめです。
>>【初心者向け】プリント基板のパターン設計を学べる!【おすすめ本3冊+オンライン動画】
この本の情報
以下の全8章と、付録が5つです。
小見出しは抜粋です。
- 第1章 基本概念
1.2 電源分配の単純な関係式
1.5 PDNの解析 - 第2章 プレーンのモデリング
2.2 プレーンの挙動
2.4 分布定数回路に基づくアプローチ - 第3章 同時スイッチングノイズ
3.3 伝達線路と電源/グラウンドプレーンのモデリング
3.4 タイムドメイン解析へのモデルの応用 - 第4章 タイムドメイン解析法
4.2 有利関数法(Rational Function Method)
4.3 シグナルフローグラフ(Signal Flow Graph) - 第5章 応用例
5.2 高速サーバ
5.3 高速差動信号伝達
5.6 埋め込み型デカップリングキャパシタ - 付録A マルチポート回路網、伝達線路の行列表現、ディジタル信号のスペクトラムについて
A.1 マルチポート回路網
A.2 伝送線路の行列表現
A.3 ディジタル信号のスペクトラム - 付録B ソフトウェアリスト
価格 | 5,800円+税 |
発行年 | 2010年 |
著者 | Madhavan Swaminathan 氏, A. Ege Engin 氏、須藤 俊夫 (翻訳) |
ページ数 | 単行本 : 472ページ |
付録 | なし |
出版社 | 翔泳社 |
>> パワーインテグリティのすべて 電源ノイズを抑えるプリント基板設計(Amazon公式サイト)
まとめ:高速デジタル回路設計・基板設計を深掘るおすすめ本
価格は確かに高めですが、「プリント基板の挙動をもっと深掘りたい」、という探求心が旺盛な方には絶対に読んでいただきたい内容です。
高速信号を深掘り!おすすめ本5冊
新しい知識をインプットしたらぜひ設計現場でアウトプット(実践)してみてください。
インプット ⇔ アウトプットのサイクルを繰り返し続けていくと、回路設計・基板設計エンジニアとして格段にレベルアップしている自分におどろくはずです。
ところで、「高速データ通信を実現するにはどのような技術が使われているのでしょうか?」
たとえば、高速デジタル伝送の回路では、「差動伝送」や「ACカップリング」などの技術が使われています。これらの知識は高速デジタル回路設計をするのであれば、知っておくとプラスになるはず。
この内容に興味のある方は、以下リンクもぜひご覧ください。
-
『SerDes』で使われている高速化の回路技術 5つ
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