トラブル事例

基板が動かない!⇒パターンの引き方を学んでトラブル減少!~新人回路設計者の奮闘~

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質問する人
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【新人回路設計者:酒井君】

試作基板でいつも想定外のトラブルが起きる。

  • クロック波形がくずれている。
  • CPUがたまにフリーズして不安定。
  • 基板のノイズが多い。

回路図を何度も確認したけど接続ミスはなし。どこが悪いのかな?

こんな疑問にお答えします。


この記事の内容

  • 基板がきちんと動かない理由と、ダメな基板パターンの特徴
  • パターン設計のノウハウが学べるおすすめサイト2つ!
  • パターン設計の知識が増えて実機トラブル激減【経験談】

この記事を書いているわたしは、デジタル回路設計歴20年です。これまでの経験と知識を活かし、現在はマネージャーとして商品企画や開発チームのサポートを行っています。


「回路図は正しいのに、なぜか基板が思ったとおりに動かない・・・。」(酒井君の悩み)


こんな経験はありませんか?


基板が動かない原因はいろいろですが、結論から言うと、酒井君の場合、「良いパターンがどういうものか、知らなかった」のが一番の原因でした。

根本原因は酒井君の知識不足にありました。


酒井君はガーバー出しの前は、回路図の結線を蛍光ペンで何度も塗りつぶして、回路図に問題がないことを確認していました。

にもかかわらず、実際の基板は、動作が不安定だったり、期待したとおりの性能が出なかったり、いろいろなトラブルが起きました。


そんなトラブルだらけの駆け出し回路設計者 酒井君でしたが、プリント基板の「良いパターン」と「悪いパターン」の違いを学び始めてから基板パターンの完成度が上がり、結果、実機のトラブルを大幅に減らすことができました。

酒井君の業務は回路設計なので、CADで実際にパターンを引くことはありませんが、強くこう言います。

回路設計エンジニアでも、プリント基板の「良いパターン」と「悪いパターン」の違いを知っておくのは大切!


前半では、基板が期待とおりに動かない理由と、ダメなパターンの特徴を説明。

後半では、パターン設計のノウハウが学べるおすすめサイトを2つ紹介しています。

回路設計エンジニアの方に役立つ情報になれば幸いです。


回路図が正しいだけでは、基板は動かない原因

考える人のイラスト

原因は配線パターンの引き方

基板が思ったとおりに動かない原因はいろいろですが、新人回路設計エンジニアの酒井君の場合、「配線パターンの引き方が悪かった」のが一番の原因でした。


酒井君は当たり前のようにこう思っていました。

「回路図を正しく描けば、基板はきちんと動くもの。思ったとおりの性能はでるはず。」

と。


ある開発案件で酒井君は悩んでいました。パターン変更した基板に問題がでたのです。

「パターン変更した基板だと、波形がくずれている!」

酒井君はパターン変更前・後の2つの基板を並べて、見くらべていました。

も、もしかして、原因はパターンの引き方!?


配線パターンの「寄生成分」で波形がくずれる

そうです。波形がくずれてしまう現象は、配線パターンに含まれる「寄生成分」が影響していました。


実は、プリント基板のパターンの中には、「抵抗」・「インダクタンス」・「容量」という3つの部品が隠れています。

この隠れた部品のことを「寄生成分」と言います。

配線パターンの中を図で描くと、以下のように「抵抗」・「インダクタンス」・「容量」がつながった構成(分布定数回路)になっています。

分布定数回路の等価回路図
分布定数回路の等価回路


パターンの引き方で、基板の性能は良くも悪くもなる

寄生成分」は回路図上では目に見えない部品ですが、実際の基板の配線パターンには元々入っている成分です!


配線パターンが持つ「寄生成分」の値は、パターンの長さ・太さなど引き回し方によって変わります。この寄生成分の影響が大きいと、信号波形がくずれたり、基板から出るノイズが大きくなったりすることがあります。

逆に言うと、「正しくパターンを引けば、きちんと動く基板が作れる」ということです。


入社当時の新人エンジニア酒井君は、「寄生成分」という言葉も、「本で見たことあるな~」ぐらいで、まったく理解していませんでした。

「パターンの引き方が悪いと、波形がひずむ。」という話も聞いたことはありましたが、なんのことかチンプンカンプン。

そんな酒井君でしたが、開発現場で数々の失敗を経験し、「パターンの引き方の大切さ」をリアルに自分の中に落とし込めてきました。


ダメな配線パターンの引き方の特徴

KiCadの基板レイアウト画面の図

ダメな基板パターン

ダメな基板パターンの引き方は、「部品同士をただつないだだけ」です。

たとえば以下のとおり。

ダメな基板パターンの例

  • 大電流が流れる電源パターンがヒョロヒョロで細い ⇒ 電圧降下が大きくなる!
  • クロック信号ラインがむだに長い、GNDガードもない ⇒ ノイズが出やすい!
  • パスコンがICから離れたところにある ⇒ ICが誤動作する!
  • 終端抵抗が受信ICから遠い場所にある ⇒ 波形がくずれる!

こんなパターンの引き方だと回路図がいくら正しくても、思ったとおりの性能がでなかったり、動作が不安定になったりします。


良い基板パターン

一方、安定して動いている基板のパターンは、ほんとキレイです。電源や信号の流れがよどみなくスムーズにつながっています。

たとえば以下のとおり。

良い基板パターンの例

  • この電源パターンには、〇〇Aの電流が流れるから、パターン幅を△△mmで配線しよう。
  • クロック信号ラインは〇〇MHzで高速だから、最短で配線して、かつ、GNDガードしよう。
  • この部品はパスコンだからICの電源ピンのすぐそばに配置しよう。

このようなパターンを引くエンジニアは、回路の電気的な特性をしっかり理解した上で、その特性に合うように基板パターンを引いています。


パターン設計ノウハウが学べるおすすめサイト【2選】

理論的なところは置いておいて、回路設計エンジニアが現場ですぐに使える、パターンの引き方のノウハウサイトを紹介します。もしかしたらご存じかもですが。

パターン設計ノウハウが学べるサイト

新人エンジニアの酒井君はこのサイトを見てパターンの引き方を覚えました。

「パターンレビューのときには、要点をおさえた修正依頼ができてめちゃくちゃ役に立ちました!」(酒井君談)

情報を提供する人
情報を提供する人

「Before(悪いパターン)」と「After(良いパターン)」が画像付きで解説されています。

ホントわかりやすいですね。


① ノイズ対策.com

ノイズ対策.comトップページの図
ノイズ対策.comトップページ

ノイズ対策を踏まえた電子回路設計を行うための技術情報サイトです。(画像:同社サイトより引用)

https://www.noise-counterplan.com/


以下のように、プリント基板設計のポイントが「ノイズ対策」や「実装」などいろいろな切り口の解説があります。

ノイズ対策.com POINT.1の図
ノイズ対策.com POINT.1


ノイズ対策.com POINT.2の図
ノイズ対策.com POINT.2


以下は、「直角配線を避ける」説明の例です。「Before(悪いパターン)」と「After(良いパターン)」が画像付きで解説されています。

ノイズ対策.com 直角配線を避ける図
ノイズ対策.com 直角配線を避ける図


② 高周波基板.com

高周波基板.comトップページの図
高周波基板.comトップページ

高周波回路設計エンジニアのための技術情報サイトです。(画像:同社サイトより引用)

https://kousyuha-kiban.com/


以下は、「GNDベタを切らない引き方」の例です。「Before(悪いパターン)」と「After(良いパターン)」が画像付きで解説されています。

高周波基板.comリファレンスプレーンを切らないの図
高周波基板.comリファレンスプレーンを切らない


パターン設計の知識が増えて、実機トラブル激減!

パターンの引き方を知っていると、実機トラブルを減らせる

基板パターンの引き方の知識が増えたことで、1次試作基板のトラブルが激減しました!

なぜなら「良いパターン」を理解できたことで、パターン検図でのチェックの精度が格段に上がったからです。


たとえば、以下の指摘事項は、入社当時の酒井君では気づけなかった内容でした。

パターンレビューの例

  • 「この信号はパターンが長いからダンピング抵抗を追加しておこう。」と気づいて、回路図へフィードバックできるようになった。
  • 「高速信号のビア直近にGNDビアがない。」と気づいて、「GNDリターンが大きくならないように切り返しのGNDビアを追加してください。」と言えるようになった。

酒井君はパターンの問題点を見つけて、パターン設計会社へ伝えられるようになりました。

基板パターン設計の完成度が上り、結果、実機トラブルを大きく減らすことができました!


酒井君の業務は回路設計なので、CADで実際にパターンを引くことはありませんが、強くこう言います。

回路設計エンジニアでも、プリント基板の「良いパターン」と「悪いパターン」の違いを知っておくのは大切!


【失敗談】基板パターン設計を丸投げして、納期遅れ

「回路図と部品レイアウト図を基板設計会社へ渡して、どう引くかはお任せ!」、という人もいます。

丸投げで、いいパターンが仕上がってくれば確かにラクですけど・・・。


以下は、基板パターン設計を丸投げして、失敗した話です。

  • パターン指示書を出さずに基板設計会社へ丸投げするとそのときはラクでしたが、パターンの問題ヵ所が多く実機でトラブルが発生しました
    基板設計会社を信用して、自分たちのパターンチェックが不十分なままガーバーアウトしたのが大きな要因でした。
  • パターン設計の技術力が高い会社に頼めば、丸投げしても完成度の高いパターンが上がってくるが、費用が高いのでいつも頼めるとは限りません。
    逆に、費用が安すぎる設計会社の場合は、設計品質が心配になります
  • 基板設計会社へいつも丸投げしてると、自社に「基板パターン設計のノウハウ」が蓄積されず、会社としての技術レベルは上がりません


このように、ラクするどころか余計な試作が増えて、納期も遅れて、お金もかかった苦い経験をしました。


回路設計者こそ、基板パターンの良し悪しを見極めよう!

これまでの経験を踏まえて、「回路設計エンジニアでも、基板パターンの良し悪しを見極める知識は必要」と考えています。

なぜなら、パターンレビューで自分たちがしっかり問題ヵ所を指摘できれば、パターン設計の完成度が上がって、実機トラブルを減らせるからです。

結果、エンドユーザーへきちんと動く基板を予定通りに納品できて、会社の信用度アップにつながります


パターンの引き方を学べばトラブル減少!

  • 回路設計エンジニアでも「良いパターン」と「悪いパターン」の違いを知っておことで、実機トラブルを減らせる!
  • 基板パターンのノウハウがどんどん積み上がっていくので、自分のスキルアップにもなるし、会社での評価も上がる!


基板パターン設計をもっと知りたい場合は?

KiCadの基板レイアウト画面の図
KiCadの基板レイアウト画面

パターン設計を自分でやってみる

回路設計エンジニアが基板パターン設計を理解する一番いい方法は、「実際に自分でパターンを引いてみること」です。

自分の手でCADを動かして、体感してはじめてわかることがあります。

実際にパターンを引いてみると、

  • 「パターンの引き方って何とおりもある。最適解を見つけるは想像以上にむずかしい!」
  • 「パターン設計者って、よくこんなに部品を詰めて置けるな~」

って、思いますね。


基板パターン設計を自分でもやってみたい!」という方は、基板設計CADソフトは、完全無料・機能制限なしの「KiCad」がおすすめです。

以下のリンクでおすすめのCADソフトを紹介していますのでぜひご覧ください。

>>【無料で楽しむ】初心者も安心!回路設計・基板設計フリーのCADソフトおすすめ5選

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パターンの引き方の理屈もおさえたい

「良いパターン」と「悪いパターン」の違いはわかったけど、どうしてそう引くのか、「理屈もきっちりおさえたい!」という方に、以下のリンクでおすすめの本を紹介しています。こちらもどうぞご覧ください。

>>【初心者向け】プリント基板のパターン設計を学べる!【おすすめ本3冊+オンライン動画】

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>>【高速デジタル信号】回路設計・基板パターン設計の第一歩!初心者にピッタリの本3冊

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まとめ:パターンの引き方を学んでトラブルを減らそう!

前半では、回路図は正しいのに「なぜか基板が期待とおりに動かない理由」を解説しました。

実はプリント基板の中には「寄生成分」と呼ばれる抵抗・インダクタンス・容量成分が含まれていて、これらの成分が基板の動かない原因でした。


後半では、「パターンの引き方を学べる」おすすめサイトを2つ紹介しました。

パターンの引き方が学べるサイト

「Before(悪いパターン)」と「After(良いパターン)」が画像付きで解説されています。ホントめちゃくちゃわかりやすいですね。


回路設計や評価など多忙な日々と思いますが、「パターンの引き方」を少しずつでも学んでいけば実機でのトラブルが減って、自分のスキルアップにもつながります。応援しています!

回路設計エンジニアの方に役立つ情報になれば幸いです。


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