ノイズ対策をしていて、「いろいろ調べたけど、どうも原因がはっきりしないな~。」ってこと、ありませんか?
そんなときは、『クロストーク』の視点でもう一度調べなおしてみるのはどうでしょう。
『クロストーク』は、意識して見ないとなかなか気づかない現象で、高速デジタル回路ではよくあるトラブルの一つです。
調べなおして、『クロストーク』が原因でなかったとしても、「クロストークが原因ではない」、と切り分けできればノイズ対策としては一歩前進です。
記事の前半は、『クロストーク』が発生するしくみと、対策方法の説明です。
記事の後半では、クロストークが起きやすい、やってはいけない【悪い基板パターン設計】について、図をまじえて説明しています。
基板パターン設計で、特に気をつけたいのは、基板の上の層と下の層同士で、パターンが重なっている場合です。パターンが重なっていると、クロストークが起きやすくなり、回路が誤動作する場合があります。
上下方向でのパターンの重なりは、基板パターンレビューでも見落としやすいので要注意です。この記事が少しでも回路設計業務の参考になれば幸いです。
この記事を書いているわたしは、デジタル回路設計歴20年です。これまでの経験と知識を活かし、現在はマネージャーとして商品企画や開発チームのサポートを行っています。
もくじ
クロストーク(Crosstalk)とは?
「クロストーク」とは、2本の配線パターン間の距離が近く、すぐ隣同士で配線されている場合、片方の信号が変化すると、その影響を受けて隣の信号波形も変化してしまう現象のことです。
下図を見てください。
配線(A)の信号が立ち上ったり・立ち下ったりしています。そうすると、この配線(A)の変動の影響を受けて、配線(B)の波形も変化しています。
この波形の変化が、ノイズです。
もし、配線(B)に発生するノイズが大きく、受信ICのスレッショルド電圧(Vth)にかかると、受信ICの挙動はどうなるでしょうか?
はい、ご想像のとおりです。
「誤動作します!」
たとえば、本来は、Lowレベルの信号であっても、発生したノイズ電圧がVthを超えていると、ICは「Highレベルの信号が来たぞ!」、と間違った判定をしてしまいます。
ICは、ノイズなのか、実際の信号なのか、区別することはできません。
開発現場でよく出る用語
「クロストーク」の話題のときに開発現場でよく使う用語です。上の配線図の中でも使っています。
- 加害者
ノイズを発生する側(ノイズ発生源)の回路や配線パターンのことです。
英語では、「Aggressor」(アグレッサー)。 - 被害者
ノイズを受ける側の回路や配線パターンのことです。
英語では、「Victim」(ビクティム)。 - 近端クロストーク
加害者側の回路から見て、加害者の送信IC(ドライバー)方向に発生するノイズを「近端クロストーク」と言います。
近端は「きんたん」と読みます。英語では、Near-End Crosstalk。 - 遠端クロストーク
加害者側の回路から見て、加害者の受信IC(レシーバー)方向に発生するノイズを「遠端クロストーク」と言います。
遠端は「えんたん」と読みます。英語では、Far-End Crosstalk。
上記の用語は覚えておくことをおススメします。
回路設計者同士の会話がスムーズになりますよ。
クロストークの発生要因は、2種類ある
クロストークの発生メカニズムには、以下の2種類があります。
- 「誘導性」のクロストーク
- 「容量性」のクロストーク
① 【誘導性】のクロストーク
1つ目は、「誘導性のクロストーク」です。
配線パターン同士が「誘導成分」で結合していて、かつ、大きな「電流」が高速に立ち上がったりすると、すぐ隣の配線パターンにノイズ(クロストーク電圧)が発生する現象です。
式で書くと以下のとおりです。
クロストーク電圧は、M と di/dt のかけ算です。つまり、配線パターン間の相互インダクタンス(M)が大きく、かつ、電流が高速に変化(di/dt)するほど、クロストーク電圧は大きくなります。
「誘導結合」とは、2本の配線パターン間の相互インダクタンス成分(M)で、お互いの配線が影響し合っている状態です。
② 【容量性】のクロストーク
2つ目は、「容量性のクロストーク」です。
配線パターン同士が「容量成分(C)」で結合していて、かつ、大きな「電圧」が高速に立ち上がったりすると、すぐ隣の配線パターンにノイズ(クロストーク電圧)が発生する現象です。
式で書くと以下のとおりです。
クロストーク電圧は、C と dv/dt のかけ算です。つまり、配線パターン間の容量成分(C)が大きく、かつ、電圧が高速に変化(dv/dt)するほど、クロストーク電圧は大きくなります。
「容量結合」とは、2本の配線パターン間の容量成分(C)で、お互いの配線が影響し合っている状態です。
クロストークを対策する!
「クロストーク」を減らすためには、「回路図」や「基板パターン図」にどう落とし込めばいいの?
「クロストーク」を減らすためには、「2本の配線パターン間の結合を減らす」必要があります。
「結合を減らす」とは、別の言い方をすると、「配線パターン同士がお互いに影響し合う結びつきを小さくする」ことです。
では、これから具体例を見ていきましょう。
「回路設計」でクロストーク対策する
- 加害者側の送信ICの出力ピンに直列に「ダンピング抵抗」を入れる。または、送信ICのドライブ強度が可変の場合は、ドライブ強度を下げる。
⇒ 波形の立ち上りをなまらせる ⇒ dv/dtを小さくする。
一般的に、ダンピング抵抗の定数は、配線パターンの特性インピーダンスよりも、大きな値にすることが多い。 - 加害者側の受信ICの入力ピンとGNDの間に並列に「終端抵抗」を入れる。
⇒ インピーダンス整合する ⇒ 信号の「反射」を小さくする ⇒ dv/dtを小さくする。
一般的に、終端抵抗の定数は、配線パターンの特性インピーダンスと同じ値にすることが多い(例:50Ω)。
↓↓以下は、抵抗定数の決め方の例です。
開発現場の状況によっていろいろやり方があるようです。
- 回路設計では、リファレンスボードの定数を仮採用して、最終は、実機で波形を見ながら定数を決める。
- プリント基板の「伝送線路シミュレーション」を活用して、波形のなまり具合や信号振幅などを確認して定数を決める。
シミュレーションを基板パターン設計業者へ依頼する場合は、費用がかかりますが、基板を作る前に定数の絞り込みができるので、実機評価をその分短縮できます。
「基板パターン設計」でクロストーク対策する
- 配線パターン同士の距離をできるだけ離す。
⇒ 容量性・誘導性の結合を小さくする。離すキョリの目安は、パターン幅Wの2倍以上にする(3Wルール:マイクロストリップラインの場合) ⇒ C と M を小さくする。 - 平行になっている配線パターン長を、できるだけ短くする。
⇒ 容量性の結合を小さくする ⇒ C を小さくする。 - 配線パターンの両側に、GNDガードを入れる。
⇒ GNDと結合させることで、その分、隣の配線との容量性・誘導性の結合を小さくする ⇒ C と M を小さくする。
基板パターン設計で、やってはいけないこと
【平行する配線パターン】 vs【直交する配線パターン】
ここでは、基板パターン設計で、やってはいけない配線パターンを紹介します。
いきなりですが、想像してみてください。
2つの配線パターンがあります。
この2つパターンが上の層と下の層のタテ方向で重なって引かれていて、しかも、重なっているキョリが長いとします。どんな問題が起きるでしょうか?
ご想像のとおりです。
上の層のパターンと、下の層のパターン同士が影響し合って、「クロストークノイズ」が発生します!
左下が、悪い例です。
【悪い例】平行する配線パターン
【良い例】直交する配線パターン
基板のパターンレビューで見落としやすいのが、左の【悪い例】の「上下層での配線パターンの重なり」です。
2つパターンが同一面上にあると、パターン同士が平行になっているかは見た目でわかりやすいのですが・・・、上層と下層の配線パターンがタテ方向で重なっているかは、意識して検図しないと非常に気づきにくいです。要注意です!
右の【良い例】は、配線パターンが直交している場合です。この場合、パターン同士が重なる部分はかなり小さくなりますよね?
重なりが小さくなるので、「結合容量」や「相互インダクタンス」も小さくなって、クロストークもへります!
基板の構造を「3Dで立体的に見る!」
基板パターン設計者は、この立体でとらえる感覚がすごいです。
配線パターンを「直交」させる目的は、クロストークを減らすこと
基板パターンのレビュー項目に、下記のようなチェック項目はありませんか?
信号パターン同士が、「平行」に配線されてないこと。(「直交」していること)
上のチェックの目的は、まさに配線パターン同士の「クロストークの低減」です。
2本の配線パターンが平行して走る距離が長くなると、重なる部分も増えるので、クロストークの影響も大きくなります。
逆に、配線パターンが直交していると、パターン同士の重なる部分はかなり小さくなりますよね?
重なりが小さくなるので、「結合容量」や「相互インダクタンス」も小さくなって、クロストークも減る、という理屈です。
このように、プリント基板の「パターンの引き方」によっては、「クロストーク」というトラブルが起きる場合があります。
「パターンの引き方」を知っておけば、基板の性能・特性を格段にUPできます!
なぜなら、「パターンの引き方」は基板の完成度に直結しているからです。
以下は、「パターンの引き方」を知って実機トラブルを減らすことができた、回路設計者 Aさんの話です。
まとめ:「平行で走るパターン」はクロストークが起こりやすい!
この記事では、プリント基板の「クロストーク」の発生メカニズムと、対策内容を説明しました。
基板のパターンレビューで見落としやすいのが、「上下層間での配線パターンの重なり」です。
同一面上で配線同士が平行になっているかどうかは見た目わかりやすいですが、上層と下層の配線パターンの重なりはなかなか気づきにくいので要注意です!
以下のリンクは、画像処理ボードで発生したクロストークの対策事例です。
「画像が乱れる」という症状が発生。「クロストーク」が原因とわかるまでめちゃくちゃ時間がかかりました。対策は基板のグランド強化でやりました。失敗事例の参考になればと思います。以下のリンクもぜひご覧ください。
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【失敗事例】画像処理基板で、ブロックノイズ! 原因はクロストーク!
続きを見る
以上、参考になれば幸いです。