基板設計&CAD

【初心者向け】プリント基板のパターンは、なぜ短い方がいいのか?(3つの理由)

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Computer repair. Electric circuit troubleshooting

プリント基板のパターン設計でよく聞く一つの原則、「パターンは短ければ短いほど良い」。

でも、「パターンが短いってどんな意味があるの?」「どんな効果があるの?」って疑問に思ったことはないでしょうか?


「なぜ短い方がいいのか?」、その理由は次の3つです。

短い方がいい理由(3つ)

  • 信号波形がキレイになるから(特に高速信号回路で)
  • ノイズが少なくなるから
  • 発熱が少ないから(特に大電力回路で)


この記事の前半では、「なぜパターンは短い方がいいのか?」、上記3つの理由を掘り下げて説明しています。

また、記事の後半では、「パターンが短いと、製品にどんないいことがあるのか?」、設計事例を通して解説していきます。分かりやすく解説しているのでぜひ読んでみてください。


この記事を書いているわたしは、デジタル回路設計歴20年です。これまでの経験と知識を活かし、現在はマネージャーとして商品企画や開発チームのサポートを行っています。


パターンは「短い方がいい」3つの理由

パターンは短い方がいい理由は、主に次の3つです。

短い方がいい理由3つ

  • 信号波形がキレイになるから(特に高速信号回路で)
  • ノイズが少なくなるから
  • 発熱が少ないから(特に大電力回路で)

細かく洗い出すと、基板の「コスト」などもありますが、今回は品質面の観点から、上記3つをあげました。

では、それぞれの理由をくわしく見ていきましょう。


理由①:信号波形がキレイになる(特に高速信号回路で)

信号波形は、パターンが短いほどきれいになる

「信号波形」とは、電子部品間でやりとりされる電気信号の形(かたち)のことを指します。

パターンが短いほど、この信号波形はキレイになります。

なぜなら、パターンが短ければ短いほど、パターン上での信号の減衰(弱くなること)が少なく、結果として送信側から受信側へ伝わる波形の劣化が防げるからです。

波形がキレイだと、送信側と受信側できちんと通信ができ、機器の安定動作につながるんです。


補足説明

  • 波形が「キレイ」とは、信号が理想的な形で、崩れやゆがみがない状態。
  • 「信号波形が崩れている」とは、信号にノイズ(不要な信号)が混じったり、波形がゆがんだりしている状態。
    これは、信号の正確な伝達を阻害し、電子機器が正しく動作しない可能性があります。


パターンが長いと波形が悪くなる理由(3つ)

では、パターンが”長い”と、信号波形はどうして悪くなるのでしょうか?

この要因は1つではありません。主に以下3つの要因が考えられます。

  • 伝送路損失
    信号が基板パターンを伝わる際に、そのエネルギーが失われる現象を「伝送路損失」と呼びます。
    パターンが長いほど、信号が通過する距離が長くなり、結果的に「伝送路損失」も大きくなります。
    伝送路」とは、基板のパターンのことです。聞きなれないかもですが、基板設計の専門用語としてよく出てくるので、覚えておいて損はないです。
    (例)パターンが長いと、伝送路損失が大きく、アイパターンの開口が小さくなる
  • 反射
    受信側IC端で信号が反射し、その反射波が信号波形を歪ませることもあります。
    パターンが長いと、これらの反射が増え、信号波形の品質が低下します。
    (例)IC間の通信で、反射により波形が崩れてスレッショルド電圧を満たせず、データの取りこぼしが発生する。
  • クロストーク
    隣接して並んだパターン間で、信号が干渉し合う現象を「クロストーク」と呼びます。
    パターンが長いほど、クロストークの影響も増えます。
    (例)10cmなど長い並走パターン同士で発生するノイズの飛び込み。

以上の理由から、パターンが長くなるほど、信号波形の品質が低下するのです。


上記のようなパターンが長い場合の影響は、特に高速のデータ通信(例:ギガヘルツGHzのPCIeやUSB3.x)ではっきりと出てきます。

信号波形が乱れると、部品間で信号を正しく受け渡しできず、通信エラーが起こってしまいます。

通信エラーのリスクをさけるためにも、基板パターンはできるだけ短く配線するのが理想です。


理由②:ノイズが少ない

放射ノイズは、パターンが短いほど少なくなる

パターンが短いほど、放射ノイズが少なくなります。

なぜなら、パターンが短ければ短いほど、パターンが電磁波を効果的に放射する「アンテナ」としての機能が落ちていくからです。


理論的には、アンテナの長さが電磁波(ノイズ)の「波長」と一致すると、アンテナから出る電磁波のレベルは、最も強くなります。

つまり、パターンの長さが、回路が出すノイズの「波長」と近い場合、パターンが性能の良いアンテナとなってしまうので、基板からノイズが放射してしまいます。


逆に、回路が動作して出すノイズの「波長」に対して、基板パターン寸法が短い場合、基板のパターンは性能の悪いアンテナとなります。結果、パターンからのノイズ放射の可能性も低くなるってことです。

パターンがその「波長」よりも短い場合、アンテナとしての性能が下がります。このため、基板からの放射ノイズも小さくなります。


基板のパターンもアンテナになる

放射ノイズの話をするとき、思い出して欲しいのが「アンテナ」です。あの長い金属の棒は電波を出したり、電波を受けたりするためのもの。

基板上の回路が動作して、パターンに電流が流れると、そのパターンの周囲に電磁場が作られます。

プリント基板上の金属のパターンも「アンテナ」と同じように機能するんです。基板からノイズを出さないように、パターンはできるだけ短く配線するのが理想です。


「波長」とは?

「波長」は、波の一周期(つまり、波の一つのサイクルが繰り返される距離)を示します。

物理的な波(例えば、音波や電磁波)では、波長は二つの波の山(ピーク)または谷(トラフ)間の距離として定義されます。

波長(λ)は、光の速度(v)をその周波数(f)で割った値で計算できます。式で表すと次のとおりです。

波長を求める公式

波長λ = c/f [m]

c:光速 [m/s](固定値:3×10^8 m/s)
f:周波数 [Hz]


放射ノイズ対策

放射ノイズを減らすためには、

  • 基板パターンを短くする
  • 適切な接地を行う
  • 必要な部分をシールドする

といった、基本的なことやるだけでも、改善が見られるはずです。


【補足】放射ノイズ対策の注意点

基板につながった「ケーブル(ハーネス)」には、要注意です。

「ケーブル」がが意図しないアンテナとして機能してしまい、放射ノイズが出ることがよくあるからです。

30cmとか1mとかのケーブルは、立派なアンテナです。

放射ノイズの対策では、基板パターンを短くする対策に加えて、基板とケーブルを接続するコネクタ周辺のパターンも入念にチェックも大切です。
例:ケーブルのシールドの、基板GNDへの落とし方など


放射ノイズのレベルを推定する理論式

放射ノイズの式はなかなか複雑です・・・。

放射ノイズは、基板の物理的な配置や、基板上の信号の種類、使用される材料、さらには周囲の環境など、色んな要素が影響します。なので、一つの公式で計算できるというわけではないんですよね。

EMIシミュレーションソフトを使うか、電波暗室で実際にノイズを測定するのが一般的です。


理由③:パターンの発熱が少ない(特に大電力回路で)

パターンの発熱(温度上昇)は、パターンが短いほど少なくなる

パターンの発熱(温度上昇)は、パターンが短いほど、少なくなります。

なぜなら、パターンが短ければ短いほど、パターンが持つ「抵抗」も小さくなるからです。


パターンの発熱の主な要因は、「抵抗」です。

電流が基板パターンを流れると、パターンの材料であるの「抵抗」が発熱します。この熱を「ジュール熱」といいます。

理論的な式で書くと、以下のとおりです。

ジュール熱を求める公式

ジュール熱 Q = I^2 x R × t [J]

I:電流 [A]
R:抵抗 [Ω]
t:時間 [s]

抵抗(R)が小さいほど、発熱は小さくなります。逆に、抵抗(R)が大きいほど、発熱は大きくなります。


パターンの抵抗値の求め方

「抵抗」は、以下の公式で表されます。

抵抗を求める公式

抵抗 R=ρ x L/A [Ω]

ρ:抵抗率
L:パターンの長さ[m]
A:パターンの断面積=パターン幅×高さ [m^2]

パターンの長さ(L)が短いほど、抵抗(R)は小さくなります。逆に、パターンの長さ(L)が長いほど、抵抗(R)は大きくなります。


ここで、ジュール熱の公式「Q=I^2 x R × t」をもう一度みてください。

同じ電流(I)がパターンに流れたとしても、「抵抗」が小さいパターンの方が、発生する熱(温度上昇)は少なくなります。


パターンが細くても、発熱する理由

パターンが「細く」なっても、パターンの発熱(温度上昇)が増えます。

なぜなら、パターンが細くなることで、抵抗が大きくなるからです。

ここで、抵抗の公式をもう一度みてください。

抵抗を求める公式

抵抗 R=ρ x L/A [Ω]

ρ:抵抗率
L:パターンの長さ
A:パターンの断面積=パターン幅×高さ

パターンの抵抗(R)は、パターンの長さ(L)だけでなく、パターンの「断面積」(幅)にも関係しています。

パターン幅が”細い”と、パターンの断面積が小さくなります。電流密度が増えて、電力損失が大きくなります。

実際の基板では、パターンが過熱して、熱でパターンが断線する場合があります。

パターンの過度な温度上昇をさけるためにも、特に、大電流回路の基板パターンは、できるだけ「太く・短く」配線するのが理想です。


短いパターンの設計事例(3つ)

Semiconductor-production

理屈ばかりではつまらないので、ここでは、「短いパターン」が実際の製品でどのような良い結果をもたらすのか、事例を3つ紹介します。

短いパターンの設計事例(3つ)

  • 高速データ通信回路の信号波形の改善(クロック100MHz超)
  • 大電流回路の電源効率の改善 (EV車両用バッテリー装置向け電源回路)
  • 三相交流ブラシレスモーター制御回路のサージ電圧の改善


事例①: 高速データ通信回路の信号波形の改善(クロック100MHz超)

製品概要

最初の例は、クロック周波数が100MHzを超える高速通信回路です。

この基板はネットワーク用ICが搭載されていて、大量のデータを高速に処理し、情報を送受信するためのものです。


不具合: 信号波形が歪む

この基板の不具合は、「信号波形の歪みが大きく、受信側ICのスレッショルド電圧を満たせていないこと」でした。


原因

信号の歪みは、パターンの長さが原因でした。

信号パターンの長さが50mmあり、SI(Signal Integrity)解析を行ったところ、この長さが信号の歪みを引き起こしていることが判明しました。


信号がパターンを通過する速度は一定ですが、パターンが長いと信号が受信側ICに到達するまでの時間が長くなります。これを「伝搬遅延」(でんぱんちえん)と言います。

また、パターンの終端(受信側ICのピン)で信号が反射すると、その反射が元の信号に干渉して信号波形を歪ませることがあります。これが「反射」と言います。


対策

波形歪みの問題を解決するために、基板レイアウトを見直し、信号パターンを短くしました。

具体的には、パターンの長さを50mmから25mmに短くしました。これにより、信号がパターンを通過する時間が短くなり、反射も減少しました。


対策後の結果: 波形の崩れが解消

上記対策により、信号波形の歪みが減少し、信号品質が大幅に改善。

再度行ったSI解析により、信号波形の歪みが大幅に減少していることが確認できました。


【補足】パターンの長さと、信号の反射の関係

一般的に、信号がパターンを通過する時間は、そのパターンの長さに比例します。

つまり、パターンが長ければ長いほど、信号がその終端(受信側ICのピン)に到達するまでの時間が長くなります。


「反射」とは、信号がパターンの終端に到達したときに、終端のインピーダンスがパターンの「特性インピーダンス」と一致しない場合に発生します。

このインピーダンスの不一致により、信号の一部が反射し、元の方向へと戻ってきます。そして、この反射信号が原信号と干渉することで、信号品質が劣化します。


パターンが短くなると、信号がパターンを通過する時間が短くなります。

その結果、反射が発生しても、その反射信号が元の信号と干渉する時間が短くなります。

  • パターンの長さを短くすることで、信号品質の劣化を減らすことができます。
  • パターンが短い場合、全体の信号経路が短くなるので、信号がパターン全体を通過するときに発生する「反射」も減少します。


事例②: 大電流回路の電源効率の改善 (EV車両用バッテリー装置向け電源回路)

製品概要

次に紹介するのは、EV(電気自動車)用のバッテリー装置の電源回路です。

この装置は大電流を扱うため、パターン設計は特に重要となります。


不具合: パターンの温度が上昇し、電源効率も悪化

この電源回路の不具合は、「パターンが発熱し、定格をオーバーしてしまうこと」でした。

もともとのパターン長は100mmで、回路が動作中に約10℃温度上昇していました。

これはエネルギーが無駄に熱として放出されてしまうことを意味し、結果的に電源の効率が悪くなっていました。


原因

パターンが長いと抵抗が増え、その結果、パターンの発熱も増えます。

これが、この電源回路で大量の熱が発生していた主な原因です。


対策

この問題を解決するために、パターンの長さを100mmから50mmに短くしました。

これにより、電流が流れるパターンが短くなり、抵抗と発熱が減少しました。


対策後の結果:発熱の減少と電源効率の向上

パターンを短くすることで、電源回路からの発熱が大幅に減少し、動作中の温度上昇は約5℃に抑えることができました。

さらに、電源の効率も大幅に向上し、エネルギー損失も減少しました。


事例③: 三相交流ブラシレスモーター制御回路のサージ電圧の低減

製品概要

最後に、三相交流ブラシレスモーターの制御基板の事例です。

三相モーターは、電気自動車や産業機器など、多くの機器で使用されます。


不具合:サージ電圧がFETの定格を超える

このモーター制御基板の不具合は、「サージ電圧がFETの定格を超えること」でした。

モーターの動作中、サージ電圧がFETの定格電圧の50Vを超え、60Vまで上昇していました。

もともとのパターン長は、60mmです。


原因

パターンが長いと、パターンの「寄生インダクタンス」と急激な電流変化で、大きなサージ電圧が発生します。

今回の回路では、モーターへ三相交流を供給するために、インバーターが大電流を急速にスイッチングします。このスイッチング時にサージ電圧が発生していました。

これが、FETの定格を超えていた主な原因でした。


対策

上記問題を解決するために、パターンの長さを60mmから30mmへ短くしました。

これにより、スイッチング時のサージ電圧が低減しました。


対策後の結果:サージ電圧の低減

上記対策により、サージ電圧はFETの定格電圧である50Vを下回る45Vまで低減されました。

FETに過電圧がかかることなく、モーターの安全性と信頼性が向上しました。


【補足】パターンを短くすると、サージ電圧が低減する理由

プリント基板のパターンを短くすると、スイッチング時のサージ電圧が低減します。

この理屈は、「電磁気学」で説明できます。ざっくり言うと以下のとおり。


電流が変化すると、電流に応じて電磁場が生成され、パターンに電圧(サージ電圧)が発生します。

これはパターンの「自己インダクタンス」という物理的性質によるもので、パターンが長いほど、同じ電流変化に対してより大きな電圧が発生します。

サージ電圧は、以下の公式で計算できます:

サージ電圧を求める公式

V = L × (dI/dt)

V:電圧[V]
L:インダクタンス[H](パターンの長さに比例します)
dI/dt:電流の時間変化率[I/t](電流の変化速度)

インダクタンスLは、パターンの長さに比例し、インダクタンスが半分になる(つまり、パターンの長さが半分になる)と、同じ電流の変化率(dI/dt)でも、発生する電圧(V)は半分になります。

以上の理論と具体的な計算により、パターンの長さを短くすることで、スイッチング時のサージ電圧が低減するという結論が裏付けられます。

この考え方は、サージ電圧が問題となる高電流または高速スイッチング回路の設計において有用なガイドラインになると思います。


上記3つの例から分かるように、「パターンを短くする」ことは、電子機器の性能と効率を向上させる効果があります。

「パターンを短くする」理由を理解できれば、今よりもっと優れた製品を設計できるようになると思います。



まとめ:短いパターンがいい理由

この記事のポイントをあらためておさらいしておきましょう。短いパターンがいい理由は、以下のとおりです。

短い方がいい理由3つ

  • 信号波形がキレイになるから(特に高速信号回路で)
  • ノイズが少なくなるから
  • 発熱が少ないから(特に大電力回路で)


初めてのプリント基板設計、なんだか難しそうで不安かもしれません。でも、全然大丈夫です!

一つ一つ学んでいくことで、自分でもびっくりするくらいの基板設計スキルが身に付いていきます。初めてでも、完成度の高い基板が作れる日はそう遠くないです。一緒にがんばりましょう。

学び続けて、試行錯誤を続けて、そして何よりも、楽しむことを忘れないでください!

あなたの成功を心から応援しています!


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