この記事では、高速シリアルインターフェース SerDes ICを搭載した画像処理基板で、映像に「ブロックノイズ」が出た原因とノイズ対策事例を紹介しています。
原因は、信号パターン同士がお互いに干渉しあう「クロストーク」でした。
対策として、SerDes ICのプリエンファシスの設定変更と、基板パターンのGND強化を行いました。
ノイズ対策の一つの事例として参考になれば幸いです。
もくじ
【症状】受信映像にブロックノイズが出る!
トラブルが出た製品は、映像機器です。
映像送信と映像受信の2つの動作モードがあります。映像信号の伝送レートは、数Gbpsです。
受信動作のみだと、ブロックノイズは出ず受信映像はキレイですが、送信と受信の両方を同時動作させると、受信映像にブロックノイズが出てしまいます。発生頻度は 100%でした。
【原因】クロストーク!
原因は、「クロストーク」でした。クロストークって、目には見えないから非常に厄介です!
クロストークとは?
「クロストーク」ってなに?
「クロストーク」とは、2本の配線パターン間の距離が近く、すぐ隣同士で配線されている場合、片方の信号が変化すると、その影響を受けて隣の信号波形も変化してしまう現象のことです。
今回の事例のクロストークは、「近端」です。
ブロックノイズの原因は、2つあった!
↓ 下記2つの要因がかさなって、送信信号の変動が受信信号へ伝わってしまい、その影響が受信映像にブロックノイズとして出てしまいました。
- 「プリエンファシス」の信号レベルが強すぎた。
受信信号は、基板外部から長いケーブルを経由してようやく基板に到達しているので、ケーブルの損失で信号が劣化している状態です。
この弱くなった状態に加えて、受信信号パターンの隣で並走している送信信号は、プリエンファシスがON設定で振幅が大きく強調されていました。
送信信号の「プリエンファシス」の鋭い立ち上りが、基板上の寄生成分(インダクタンス・容量)を伝わって隣の受信信号にもれてまったと考えられます。
弱くなった受信信号には、強烈すぎたようです。
- 送信・受信信号パターンに、「GNDガードリング」が無かった。
基板パターンを確認すると、数Gbpsの高速信号にもかかわらず、送信信号と受信信号のパターンにGNDガードがありませんでした。
また、2つのパターン同士が物理的にかなり近い距離で配線されていました。
回路図上ではお互いにつながっていない送信・受信パターンですが、基板上では、GNDガードもない状態でお互い近寄っていたので、パターン同士が基板上の目に見えない寄生成分(インダクタンス・容量)でつながっていたと考えられます。
送信信号の鋭い立ち上り・立ち下りが受信信号に乗っかってきて、結果、受信波形が乱れてしまいました。
>>「プリエンファシス(Pre-Emphasis)」はこちら
【ノイズ対策】プリエンファシスの設定変更と、基板のGND強化
対策は、大きく2点です。
- 送信ICの「プリエンファシス」のゲインを、できるだけ小さくする。(ソフトの設定変更)
- 送信・受信信号パターンのGNDガードを強化する。(基板のパターン設計変更)
回路構成や部品配置などの違いで、すべての基板で対策効果があるとは言えませんが、一つの事例として参考になれば幸いです。
↓ 下図が、基板パターン変更前・後のイメージ図です。
■ 基板パターン変更”前”(クロストーク対策前)
■ 基板パターン変更”後”(クロストーク対策後)
このように、プリント基板の「パターンの引き方」によっては、「クロストーク」というトラブルが起きる場合があります。
「パターンの引き方」を知っておけば、基板の性能・特性を格段にUPできます!
なぜなら、「パターンの引き方」は基板の完成度に直結しているからです。
以下は、「パターンの引き方」を知って実機トラブルを減らすことができた、回路設計者 Aさんの話です。
【反省点】実機評価でわかったこと
実機評価でわかったこと。
- プリエンファシスは、プリント基板の損失で閉じたアイパターンを大きく開いてくれるメリットもあるけど、逆に、ノイズ発生源となってしまうデメリット(副作用)もある。
- プリエンファシスを製品で使うときは、メリットとデメリットを考慮しながら製品規格値を満たすようにプリエンファシスの設定を最適化していく必要がある。
- プリント基板のパターン設計では、高速信号の両側をGNDでしっかりガードし、クロストーク低減策を盛り込んだ設計をすること。
>>「プリエンファシス(Pre-Emphasis)」について知りたい方はこちら。
まとめ:クロストークの原因と対策
この記事では、画像処理基板で「ブロックノイズ」が出た原因と、ノイズ対策事例を紹介しました。
今回のブロックノイズの原因は、「クロストーク」でしたが、基板が動かないときって挙動を見ただけでは原因なんてすぐに特定できないですよね?
「クロストーク」にたどり着くまで、電源ラインにパスコンを追加したり、DDRメモリのロット不良を疑ったり、ソフトの設定を見直したりと、めちゃくちゃ調べました。
ノイズ対策はほんと精神的にキツイかった・・・。
でも、チームワークでなんとかギリギリ納期に間に合ったー!
ノイズ対策のひとつの事例として参考になれば幸いです。
以下リンクでは、「クロストーク」の発生メカニズムを解説しています。
クロストークについて「もう少し詳しく知りたい!」、と言う方は以下リンクもぜひお読みください。
>>【クロストーク】高速デジタル回路でよくあるトラブル ~基板パターン設計でやってはいけないこと~
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【クロストーク】高速デジタル回路でよくあるトラブル ~基板パターン設計でやってはいけないこと~
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