「プリント基板のシミュレーション」をしたい。
どんなソフトがあるの?
「SI・PI・EMI・熱解析」ができて、さらに「無料」だとうれしいな。
こんな疑問にお答えします。
この記事の内容
- 「SI・PI・EMI」シミュレーション用ソフト
- 「熱」シミュレーション用ソフト
- 「電磁界解析」ソフト
この記事を書いているわたしは、デジタル回路設計歴20年です。これまでの経験と知識を活かし、現在はマネージャーとして商品企画や開発チームのサポートを行っています。
今回は、プリント基板のパターン設計に役立つ「シミュレーション用ソフト」を紹介していきます。
「プリント基板」は、日ごろ使っているスマホやパソコンなどの機器には欠かせない部品ですが、プリント基板を製造するには、高い設計技術や知識が求められます。
でも安心してください。「シミュレーションソフト」を使うと、複雑な電子回路やプリント基板の動作を「見える化」でき、わかりやすくなります。
有料版から無料版まで、いろいろなシミュレータを紹介しているので、今後のプリント基板設計に役立つ情報だと思います。
シミュレータを上手く使いこなすと、プリント基板の品質向上やコスト削減にもつながりますので、ぜひ読んでみてください。
もし、自分の会社に「プリント基板のシミュレーションソフトがない」って場合は、基板パターン設計会社へ頼むのが手です。
「シミュレーションって、どうやって頼めばいいかわからない」と疑問に思う方は、以下のリンクもぜひ読んでみてください。頼むのに必要な資料やデータなどを説明しています。
>>【回路設計者向け】プリント基板のシミュレーションでできること・基板設計会社への頼み方
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【回路設計者向け】プリント基板のシミュレーションでできること・基板設計会社への頼み方
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もくじ
SI・PI・EMI解析ソフトウェア【有料版】
ここでは、 SI解析・PI解析のソフトを紹介しています。2行目が、製品名。
基板パターン設計と、解析機能がいっしょになったソフトを、「統合ソフトウェア」と言います。CR-8000やAltium Designerが該当します。
HyperLynxやDEMITASNXは、基板パターン設計の機能がありません。基板パターン設計は別のCADソフトで行って、その基板設計データをHyperLynxに取り込んでSI解析などを行います。
有料 | 有料 | 有料 | 有料 | 有料 | 有料 | 有料 | 有料 | |
製品名 | CR-8000 シーアールハッセン | Altium Designer アルティウムデザイナー | OrCAD オアキャド | Sigrity Aurora シグリティオーロラ | COLMINA CAE コルミナシーエーイー | HyperLynx ハイパーリンクス | DEMITASNX デミタスエヌエックス | Quadcept クアッドセプト |
社名 | 図研 | Altium (アルティウム) | Cadence (ケイデンス) | Cadence (ケイデンス) | 富士通 | シーメンス EDA *1 | 日本電気 | クアッドセプト |
公式サイト | 公式サイトへ | 公式サイトへ | 公式サイトへ | 公式サイトへ | 公式サイトへ | 公式サイトへ | 公式サイトへ | 公式サイトへ |
基板パターン設計 | Design Force | Altium Designer | OrCAD PCB Editor | Allegro PCB Editor | PCB Design | PCB Designer | ||
SI解析 | Design Force | SPICE | OrCAD Signal Integrity | Sigrity Aurora | Signal Integrity | HyperLynx SI | シミュレーション サービスあり | |
PI解析 | Design Force | PDN Analyzer | Sigrity Aurora | Power Integrity | HyperLynx PI | PIStream | シミュレーション サービスあり | |
EMI配線 ルールチェック | EMC Adviser | OrCAD Sigrity ERC | HyperLynx DRC | DEMITASNX | DEMITASNXと連携した解析サービスあり | |||
熱解析 | HyperLynx Thermal | |||||||
本社 | 日本 | アメリカ | アメリカ | アメリカ | 日本 | ドイツ | 日本 | 日本 |
代理店 | イノテック | 日本ケイデンス・ デザイン・システムズ | マクニカ | NECソリューション イノベータ |
*1:Mentor は、Siemens と統合して Siemens EDA となりました。
より高度な解析をしたいという方には、「電磁界解析ソフトウェア」があります。
熱解析ソフトウェア【無料あり】
ここでは、 熱解析のソフトを紹介しています。
一番左端は、「無料」のシミュレーター「PICLS Lite」です。
有料 | 有料 | 有料 | 有料 | 【無料(フリー)】 | |
種類 | 熱流体解析 | 熱流体解析 | プリント基板専用 | 電子機器 | プリント基板専用 |
製品名 | Icepak | FLOWSQUARE+ | Simcenter Flotherm PC | 熱設計PAC | PICLS Lite |
社名 | ANSYS (アンシス) | (株)Nora Scientific | Siemens (シーメンス) | Hexagon (ソフトウェアクレイドル) | Hexagon (ソフトウェアクレイドル) |
公式サイト | 公式サイトへ | 公式サイトへ | 公式サイトへ | 公式サイトへ | 公式サイトへ |
本社 | アメリカ | 日本 | ドイツ | アメリカ | アメリカ |
日本代理店 | CYBERNET | IDAJ | |||
備考 | ODB++インポート |
自分の会社に「プリント基板のシミュレーションソフト」がない場合、どうすればいいの?
一般的には、基板パターン設計会社へ頼むことが多いと思います(ソフトは高額なので、会社的にすぐには購入できないので)。
基板パターン設計会社がどんなシミュレーションができるかは、持っているソフトや技術力で変わってきます。自分のやりたい検証ができる会社か? まずは基板設計会社へ相談してみましょう。
基板設計会社へのシミュレーションの頼み方は、以下のURLを参考にしてみてください。
>>【回路設計者向け】プリント基板のシミュレーションでできること・基板設計会社への頼み方
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【回路設計者向け】プリント基板のシミュレーションでできること・基板設計会社への頼み方
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電磁界解析ソフトウェア
ここでは、「電磁界解析ソフト」を紹介します。
電磁界解析ソフトは、基板パターンの「寄生成分」を抽出できるのが特長で、高速デジタル伝送回路・高周波回路の基板でよく使われています。
部品の特性だけでなく、基板パターンの「寄生成分」も含めてシミュレーションするので、実際の基板に近い波形をリアルに再現してくれます。非常に高精度。
主な用途は、高い周波数で動く無線回路や、Gbpsの高速通信回路がのったプリント基板をシミュレーションするために使われます。
電磁界シミュレーションの流れ
電磁界シミュレーションの手順は、ざっくり、以下のとおり。
- 基板CADデータと、基板の材料特性(比誘電率・誘電正接)を「電磁界シミュレーター」へ入力する
- 電磁界解析シミュレーターは、配線パターンの寄生成分を「Sパラメータ」という形式で出力する。
- 期待している特性かどうかは、この「Sパラメータ」を見ることで確認できる。
高周波回路の場合、基板パターン設計の段階で、「電磁界シミュレーター」を使って特性出ししておく方が、トータルの開発期間を短くできます。
「電磁界解析シミュレーター」は、強力なサポーター
電磁界シミュレーターは、回路設計業務を助けてくれる強力なサポーターです。
以下、わたしの経験です。
「電磁界シミュレーター」を使う前
実機の性能出しをするのに手改造で、基板パターンをいじって試行錯誤していました。手改造しては悩んでの繰り返して評価に何週間もかかっていました。
「電磁界シミュレーター」を使った後
パソコンのシミュレーター上で、パターン変更したり、部品変更したりできます。実機を手改造するのに比べると、格段にラクな作業です。
基板を作る前に、パソコン上で条件を変えながら性能を追い込めた結果、実機トラブルが減って、製品の評価期間を短縮することができました。
「電磁界シミュレーター」の注意点
電磁界シミュレーターは、魔法のソフトではありません。
「電磁界シミュレーターを使えばなんでも解決できる」、と使い始めた頃は思っていました。
が、やっぱりソフトはソフト。シミュレーション結果と、現実の実機の波形を比べると、違う場合があります。
使いこなすには、「シミュレーターの”くせ”を理解しつつ、設定をいろいろ調整する必要がある」、ってことがわかりました。
使いこなすのに時間はかかりますが、回路設計の事前検討などに上手く取り入れると、基板試作前に問題ヵ所を見つけて特性改善ができます。これは大きな魅力です。
電磁界シミュレーターは、回路設計業務を効率化してくれる頼りになる味方です。
【無料版】電磁界解析ソフトウェア(2社)
「無料」の電磁界シミュレーターを紹介します。
「電磁界解析シミュレーターってどんなことができるのかな? 一度動かしてみたい」、と興味のある方は気軽に試せます。
ただし、無料版は回路規模がいくらまでとか、基板の層数は4層までとか、制限があったりします。使う前にどういう制限があるか確認しておきましょう。
画像 | ||
製品名 | Sonnet Lite | Qucs Studio |
社名 | Sonnet Software (ソネットソフトウェア) | ドイツのエンジニア Michael Margraf 氏 |
公式サイト | 公式サイトへ | 公式サイトへ |
本社 | アメリカ | ドイツ |
日本代理店 | >>ソネット技研 |
【無料版】Sonnet Lite
【有料版】電磁界解析ソフトウェア(5社)
有料 | 有料 | 有料 | 有料 | 有料 | |
製品名 | HFSS | CST Studio Suite | PathWave ADS | EMCoS Studio | S-NAP PCB Suite |
社名 | ANSYS (アンシス) | DassaultSystemes (ダッソー・システムズ) | Keysight (キーサイトテクノロジー) | JSOL (ジェイソル) | MEL (エムイーエル) |
公式サイト | 公式サイトへ | 公式サイトへ | 公式サイトへ | 公式サイトへ | 公式サイトへ |
本社 | アメリカ | アメリカ | アメリカ | 日本 | 日本 |
日本代理店 | CYBERNET | AET |
商用版を導入する場合は、まずは無料版で「電磁界シミュレーターで何ができるのか?」、自分の手を動かして実際に使ってみると理解が深まるのでおすすめです。
導入は大きな投資になるので、上司に対しては、「導入するとこういうメリットがあります。」「費用対効果はこうです。」とか、きっちり説明できるようにしたいですね。
各ソフトウェアベンダーは初心者向けのセミナーを開催しています。セミナーに参加してベンダーの人に技術的な質問や予算など相談してはどうでしょうか。いろいろアドバイスしてくれると思います。
まとめ:プリント基板のシミュレーションソフト
この記事では、「プリント基板のシミュレーション用ソフト」を紹介しました。これから導入を検討される方の参考になれば幸いです。
以下の記事では、完全プロ用の回路設計・基板設計エンジニアが使う「CADソフト」を紹介しています。
個人ユーザーが購入するのは費用的に厳しいですが、将来、回路設計や基板設計の仕事を目指す方には「実際の設計現場ではどんなCADが使われているのか?」参考になると思います。興味があればぜひ目を通してみてください。
>>【完全プロ向け】仕事で使う回路設計・シミュレーション&基板設計CADソフトを徹底調査(7つ比較)
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仕事で使う回路設計・基板設計CADソフトを徹底調査(7つ比較)
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