回路設計

高速シリアルインターフェース「SerDes」とは? ~回路構成・高速化技術・イコライザなど~

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質問する人
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SerDes」のICを使った回路設計は初めて。

  • SerDesってどんな回路?
  • SerDesはどんなところで使われてるの?
  • SerDesではどうやって高速伝送を実現しているの?
  • SerDesを使う理由ってなに?

こんな疑問にお答えします。


この記事の内容

  • SerDesの回路構成について
  • SerDesが使われている製品
  • SerDesの高速伝送を実現する回路技術【5つ】(イコライザなど)
  • ギガビットの高速伝送で「シリアル接続」を使う理由

この記事を書いているわたしは、デジタル回路設計歴20年です。これまでの経験と知識を活かし、現在はマネージャーとして商品企画や開発チームのサポートを行っています。


この記事では、これから高速シリアルインターフェース「SerDes」ICを使って回路設計を始める方に向けて、SerDesの回路構成や高速化で使われている技術などを紹介しています。わかりやすく説明していますのでぜひお読みください。


『SerDes』とは、「シリパラ変換」と「パラシリ変換」の組み合わせ

SerDesとは、Serializer(シリアライザー)と Deserializer(デシリアライザー)の、2つのことばをくっつけた単語です。

サーデス」と言います。

  • シリアライザー
    入力されたパラレルデータ を シリアルデータへ変換して出力する「パラシリ変換回路」のことです。
    たとえば、8本の入力信号を1本の信号線で出力します。
  • デシリアライザー
    「① シリアライザー」とは逆の動作で、受け取ったシリアルデータ を パラレルデータへ戻す「シリパラ変換回路」のことです。
    たとえば、1本の入力信号を受けて、8本の信号線で出力します。


以下の図を見てください。2つの基板が1本の信号線でつながっています。

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左が送信基板で、この送信基板上の黒色の部品①が「シリアライザー」のICです。

右が受信基板で、受信基板上の黒色の部品②が「デシリアライザー」のICです。

SerDes ICを使うと、送信回路と受信回路をつなぐ信号の数をへらすことができます。信号の数が少ないと、下記のメリットがあります。

信号の数が少ない【メリット】

  • 基板サイズを小さくできる。
  • ノイズを小さくできる。
  • データを高速伝送できる。


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「パラレル接続」「シリアル接続」ってなに?

回答

  • パラレル接続
    2本以上の信号線を使って送信回路と受信回路つなげる方式です。
    たくさんの信号線を使って、複数のデータを同時に送信します。パラレルの意味は「並列」です。

    (例)PCI 32ビットバス、SCSI (2000年前後のパスコンで使われていました。)
  • シリアル接続
    1本の信号線を
    使って送信回路と受信回路つなげる方式です。
    1本の信号線で、1ビットずつ順番にデータを送信します。

    (例)UART、I2C


『SerDes』はどこで使われてるの?

PCI Express cardの写真
PCI Express card

SerDesが使われてる製品

以下は、SerDesを使っている信号の代表例です。

用途信号規格
PC周辺機器PCI Express、USB、Thunderbolt
ストレージSATA、SAS
ビデオディスプレイDisplayPort、HDMI
放送用映像機器SDI
車載用映像機器GMSL(マキシム社)、FPD-Link(TI社)、GVIF(ソニー社)
ネットワークイーサネット(1Gbps, 10Gbps, 25Gbps, 100Gbps)

PCI ExpressやUSBは、パソコンでよく聞く名前なので、ご存知ではないでしょうか? ここでもSerDesの回路が使われています。

>> 高速シリアルインターフェース規格【比較表】 ~USB・PCIe・SDIなど~


車の中でも、SerDes

車の中でも、SerDesが使われています。

たとえば、車内で動画を見るためのディスプレイや車載カメラです。SerDesの技術は車内の機器同士で映像データを伝送するインターフェースとしても使われています。

以下は、車載用SerDes ICの主な半導体メーカーです。伝送プロトコルは、各社が独自で決めています。

SerDesの半導体メーカー


家の外でも、SerDes

防犯カメラの写真
防犯カメラ(security camera)

家の外でも、SerDesが使われています。

たとえば、「防犯カメラ」です。防犯カメラで撮影した映像を、「SerDes」を使って信号線の少ないシリアル通信にしてから家の中のモニタへ映像を送ります。このとき、防犯カメラへの電源供給もシリアル通信の信号線にのせて行います。

このように、信号線上に電源をのせて、相手側基板に電源供給するやり方を「PoC(Power Over Coax)」と言います。


PoCを使うと、家の外のような電源の確保がむつしい場所でも、信号線を通して機器へ電源供給ができます。電源の線が不要になるので、機器の取り付けがかんたんになります。

このように、SerDesは信号のやり取りだけでなく、機器へ電源供給することもできます。


PoCの回路部品は、インダクタとコンデンサ

質問する人
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PoC」はどんな回路で実現しているの?

インダクタ」と「コンデンサ」の2つで構成しています。非常にシンプルです。

以下のような、それぞれ部品の性質を利用することで、DC電源を信号線上にのせて相手側機器へ電源供給することを実現しています。

  • インダクタ(L)は、直流(DC)を通しますが、交流は通さない。
  • コンデンサ(C)は、交流を通しますが、直流(DC)は通さない。


PoC回路を作る部品はシンプルですが、ギガビットの高速信号をPoC回路できちんと動かすには、プリント基板配線の高周波での振る舞いをしっかり理解しておくことが重要です。

以下の記事では、回路設計の現場で使えるPoCの『回路設計チェックリスト』を紹介しています。設計者の方にお役に立つと思いますのでぜひ目を通してみてください。

>> PoC(電源重畳)。ギガビットの高速通信でもきちんと動かす! ~回路図チェックリストあり~

あわせて読みたい
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【PoC(電源重畳)】ギガビットの高速通信でもきちんと動かす! ~回路図チェックリストあり~

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ギガビットの高速伝送を実現する回路技術

高速化の回路技術【5つ】

ギガビットの高速シリアル伝送を実現するためには、いろいろな工夫がされています。

主に以下の5つが、高速化を実現する技術的なヒミツです。

高速化を実現する仕掛け

  • 2本の信号線を使ってデータを送る「差動伝送
  • 送信回路と受信回路を、コンデンサでつなぐ「ACカップリング
  • 「シンボル間干渉(ISI)」をへらす「符号化
  • クロックをデータから再生する「CDR」(Clock Data Recovery)
  • アイパターンの開口を大きくする「イコライザ」(Equalizer)


差動伝送やACカップリングなどの知識は、高速デジタル回路設計をするのであれば、知っておいてプラスになります。高速化の回路技術をもっと知りたい方は、以下リンクもぜひご覧ください。

>> 『SerDes』で使われている高速化の回路技術 5つ

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『SerDes』で使われている高速化の回路技術 5つ

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波形をキレイにする技術「イコライザ」とは?

「イコライザ」とは、信号波形をキレイにする回路技術のことです。

下図を見てください。上側(赤)はイコライザを使わない場合のアイパターンで、下側(青)は使った場合です。

上側(赤)のアイパターンはつぶれていますが、イコライザを使うと下側(青)のように、アイパターンがのように「ぱかっ」と開くようになります。

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ギガビットの高速な信号がプリント基板上を通過すると、基板自体が持つ損失の影響で、信号が受信側ICに到達したときには振幅が小さくなってしまいます。

特に、データ転送レートがギガビットの高速信号は、プリント基板が持つ損失の影響を受けやすくなります。この劣化した信号を補正するために「イコライザ」を使います。

イコライザには、DFE(Decision Feedback Equalizer)やCTLE(Continuous Time Linear Equalizer)などいくつか種類があります。詳しくは次の記事で紹介していますのでぜひお読みください。

>> アイパターンが開く! 高速デジタル伝送を実現するカギ ~イコライザ技術~

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情報を提供する人
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高速デジタル信号の回路設計のオススメ本を紹介します。

高速化の回路技術や、プリント基板の高周波での振る舞いなど、具体的に知りたい方は以下リンクもぜひご覧ください。高周波回路の理解が深まってエンジニアとしての幅も広がりますよ。

>>【高速デジタル信号】回路設計・基板パターン設計の第一歩!初心者にピッタリの本3冊


『シリアル接続』を使う理由は、高速化のため

高速伝送では、どうして信号本数の多い「パラレル接続」ではなく、信号数の少ない「シリアル接続」を使うようになったのでしょうか?

気になりませんか?


理由は、シリアル接続の方が、データ伝送を高速化できるからです。


「パラレル接続」の転送レートは頭打ち。「シリアル接続」に置き換わった信号規格

以下は、「パラレル接続」 ⇒ 「シリアル接続」へ移行した信号規格の代表例です。

  • PCI Express
    大昔(2000年前後)のPCI規格は、データバスが32ビットのパラレル接続でしたが、信号の高速化が進むにつれて、シリアル接続のPCI Express(PCIe)規格へと進化しました。
  • SATA(Serial ATA)
    ハードディスクのインターフェースATA(IDE)が、後継のSATA(Serial ATA)へ置き換わっています。

このように、高速信号の伝送方式では、現在、「シリアル接続」が広く採用されています。


「パラレル接続」が、高速伝送に不向きな理由

「パラレル接続」は、たくさんの信号が集まったバス信号です。信号線が多いので、以下の技術的な問題があります。

  • 基板サイズが大型化
  • ノイズが増加
  • バス信号同士のタイミング調整が難しい

上記のように、たくさんの信号線があるパラレル接続は、ギガビットの高速伝送には向いていません。

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「パラレル接続」の問題点

  • バス信号同士のスキュー(タイミングのばらつき)で、システムが要求するセットアップ時間・ホールドタイム時間を満たすのが、より難しくなった
  • たくさんの信号が同時に Low → High・High → Lowに変化(スイッチング)するので、ノイズが発生しやすくなった。
  • バス信号同士の「クロストーク」や、「グランドバウンス」(基板のグランドがゆれること)が増えた

パラレル接続では、上記問題があるので、実現できるデータ転送レートが頭打ちになってしまいました。


「シリアル接続」が、高速伝送に向いている理由

シリアル接続は、信号線が少ないので、基板サイズの小型化(基板のコスト削減)や、低ノイズ、また、タイミング調整が容易、などの利点があります。

この使いやすさがあるので、シリアル接続方式は、USB・PCIeなどのギガビット高速伝送で広く採用されています。

serdes_tx_rx_serial_1_1
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信号線が少ないと、信号同士のスキュー調整がしやすくなるので、より高速化につながります。

極端な例ですが、基準クロックとデータ信号のセットアップ・ホールド時間を調整する場合、32本のデータバスに対して遅延調整するより、データ信号がたったの1本の方が、だんぜんラクですよね?!

また、信号線が少ないのは、元からパターン同士のクロストークが発生しにくい配線構造になっています。


「パラレル接続」と「シリアル接続」の比較

↓ 下表は、パラレル接続とシリアル接続の比較です。



No項目パラレルシリアル
1信号の数
2ノイズ
3タイミング調整
4ICのパッケージ
5ICの消費電力

「シリアル接続」のメリット

  • 信号線が少ないので、基板上の配線面積を小さくできる(基板サイズが小さくなる)。
  • 同時スイッチングノイズやクロストークが減少する。
  • 信号同士のスキュー(タイミングのばらつき)調整がやりやすい。
  • 部品のピン数が少ないので、パッケージを小さくできる(基板サイズが小さくなる)。
  • ICの回路規模を小さくできるので、消費電力が小さくなる。


上記のとおり、「パラレル接続」と比べ、「シリアル接続方式」の方が、基板サイズの小型、低ノイズ、高速データ伝送など、だんぜんメリットがあります。

各半導体メーカーは機器同士をシリアル接続するSerDes ICを積極的に開発しています。


まとめ:SerDesの回路技術

この記事では、高速シリアルインターフェース「SerDes」の回路構成・高速化の仕組みや、LTSpiceを使ったイコライザの波形シミュレーションを紹介しました。回路設計業務に少しでもお役に立てれば幸いです。

以下のリンクでは、SerDesをもっと深掘りしています。「SerDesについてもっと知りたい」と言う方はぜひ読んでみてください。


高速デジタル信号の「回路設計」・「基板パターン設計」の実務で役立つ本も紹介します。

高速化の回路技術や、プリント基板の高周波での振る舞いなど、高周波回路の理解が深まるとエンジニアとしての幅も広がります。下記リンクもぜひご覧ください。

>>【高速デジタル信号】回路設計・基板パターン設計の第一歩!初心者にピッタリの本3冊

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【高速デジタル信号】回路設計・基板パターン設計の第一歩!初心者にピッタリの本3冊

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